「ある起業家の話」

ヴィトケンシュタインという方を教えていただいたので、
Wikiでみてみたらウィーンの人だった。 そしてこの人は哲学だけじゃなく、
言語哲学をやってるのが興味深い。

ウィーンという場所はどうも言語学に長けているようで、新しい国際英語に
ついての前衛的な研究がなされていると最近聞いたばかりなのだ。 
ウィーン大学の言語学はさぞかしすばらしい研究場所なのだろうなぁ。

わたしはウィーンに行ったことがない。
オーストリアは何度か行ったけれど、行くべき場所が多すぎてまだウィーンに手が回ってないというのが正直なところ。 プラハなんかとからめてぜひ行ってみたい。
たぶん冬にはいかないほうがいいんじゃないかっていう気だけはしている。


ま、さておき。

この話はある起業家の話である。



彼女は数年前に起業をし、わたしよりも社長としては先輩だった。ほぼ一人状態で仕事をしているが、彼女はプロフェッショナルなスキルを持っているので、それを武器に自らを売り込むことで仕事を受注していた。

起業にはよくあるタイプと言える。

しかし、彼女は自らが動きすぎて、肝心な「会社」としての経営に行き詰まりを感じていた。 なぜなら、自分が働けば、その分日々のお金にはなるのだから、会社経営などしている余裕がないというわけだ。

むしろ、会社経営は彼女にとって苦痛でしかなかった。
自分の仕事だけをしていれば、明日の経理のことも、雇ったパートのことも悩まなくてよかったのに、なんでこんな面倒なことになってしまったのだろう、と。

あの震災のあとで、彼女の仕事はぱったりと途絶えてしまった。
自分が日銭を稼ぐことで生活を保っていたのに、その頼みの綱も怪しくなってしまった。

彼女はパートに辞めてもらうことにした。
そして、すべての会社業務の一切を停止することに決めた。




わたしは彼女とは震災前に会って1度名刺をもらっていた。
今回偶然のめぐり合わせでそのプロフェッショナルな仕事を依頼するために彼女とコンタクトをとることにし、二人は数か月ぶりに会うことになった。

「実はもう日本での仕事はほとんどしていないの。 食べることぐらいはなんとか仕事が来ているのだけどね。」

そして彼女は続けた。

「アメリカに住むつもりなの。」

「仕事と会社はどうするの。」とわたしは聞かずには入られない。

すると彼女はこう言った。

「向こうで幸い雇ってくれる会社が見つかりそうだから。」


彼女は自らのプロフェッショナルなスキルを活用し、アメリカに職を得ることにしたのだ。
ほら、日本は安全面でもいろいろあるし、と彼女はそう付け足した。


それでも年末までは日本にいるそうなので、わたしは彼女にそのプロフェッショナルな仕事をお願いすることにした。

こちらから持って行った仕事なので割り引いた価格にしてほしい、というお願いつきだ。 なぜならわたしの後ろには別のお客様が待っているからだ。 
つまりわたしは彼女に外注としてその仕事を委託しようとしていたというわけだった。

彼女は自分が取りに行った価格と同じ金額を提示してきた。
あるいは定価がないのかもしれない。
わたしは価格について、お客様から見たら同じ金額であるべきこと、うちの会社はその仕事を仕入て再販するのだから、マージンが欲しいことを少なくとも3回は説明した。

最後に彼女はこう言った。

「あなたの会社が手数料が欲しいのなら、その金額に上乗せしてお客に出せばいいんじゃないの。」


彼女はプロフェッショナルなスキルを持って、プロフェッショナルとしてやってきた人だ。
その仕事にはおそらく間違いがなく、最高のレベルの仕事をしてくれるに違いない。


しかし彼女には決定的に何かが欠けている。
少なくともわたしにはふたつのものが欠けているように見えた。


「あなたはその営業力をどこで手に入れたの。 よくお客さんが見つかるわね。」


彼女は褒めているのだか、なんだかわからない言葉をわたしに投げかけた。


そして一番最後にこう言った。

「もうアメリカに行ったら雇われると思うと楽になる。」


欠けていると思っていたふたつのものは、最初からこの人は持っていなかったのかもしれないな。

割り引かれていない見積書を見ながら、わたしはそう思った。


それからわたしは1通のメールを書き始めた。

「お世話になっております。私共のお客様からのご依頼で御社に外注でお願いしたくご連絡します。弊社マージンを考慮し定価から割引価格にしてほしい・・・。」


東京にはプロフェッショナルはいたるところにいる。


わたしはラッキーだと思った。 
だって、わたしはこうしてお客様のことを常に考えていられるのだから。
それに四六時中会社のことを考えていることだって、心の底からうれしいと思っているのだから。


そして、彼女のまだ見ぬアメリカ生活のことをそっと小さく考えた。
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by MySakuranbo | 2011-10-15 19:36 | 日々の出来事 | Comments(0)

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